主催:国立新美術館
A「高齢社会における文化芸術の可能性〜英国から日本視察ツアー」
Arts for Ageing Society:Japan Study Tour
主催:ブリティシュ・カウンシル 4月13日〜4月17日
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今年の2月から4月まで毎月「高齢者とアート」をテーマにした講演依頼があった。「高齢者施設へアートデリバリー」を開始してから、シンポジウムの企画はいつも自作自演、こんなことは初めてだ。高齢化の波が社会全体に急速に押し寄せてきた現実にアート関係者も沈黙してはいられなくなったのだろう。2月のア−トサポートふくおか主催「高齢者とアートのしあわせな出会いを目指して」は前回のブログで報告。その後記録冊子が出版され、熊本現代美術館・学芸員、坂本顕子氏がartscapeに学芸員レポートとして掲載、webをご覧下さい。
アートサポートふくおか http://www.as-fuk.com/koureisya.art.pdf
artscape http://artscape.jp/report/curator/10109251_1634.html
@3月15日「アーティストとの関わりは私たちに何をもたらすのか」“経験する”現場からの検証 会場:国立新美術館
このシンポジウムは、2007年国立新美術館の開館以来アーティストによるワークショップを開催してきたことを基に、美術館の教育普及の在り方や地域コミュニティで行われているワークショップ事例も交え、アートが人にもたらす変化や影響を検証して今後に繋げようと企画された。
基調講演はニューヨークよりホイットニー美術館のヘザー・マクソン氏が招聘され美術館がどんなポリシーで学校、青少年や家族対象プログラムの提供をしているかを話された。ホイットニー氏の近現代美術コレクションを主とするこの美術館は、当然ながら創設者の考え方が色濃く教育普及にも反映されている。10代の感受性の高い子どもたちに現代美術作家と共同作業をし、アートを批判的に議論して創造的に思考する主体性を身につけることをポリシーに教育普及が展開されている。単なるイベントではなく長期的なプログラムとして学校では学べない、もうひとつの学びの場として美術館の存在がしっかりと地域に根付いている。特に、多民族国家として生きるアメリカの子どもたちへ文化の多様性を学び将来の進路を考える機会ともなっている。そんな子どもたちのなかから、弁護士になった子もいるという。アートで自分を見つめ批評精神を学ぶことが社会へ向けて目を開くことになる美術教育の一例だと思う。
主催者、国立新美術館・学芸課教育普及室の吉澤菜摘氏は開館以来52回、子どもから大人までを対象にしたア−ティストによるワークショップについて事例をパワーポイントを使って発表された。主として展覧会出品者が自作を見せてからワークショップに入り、参加者は自由に制作する。その過程で自分自身の新たな思考や能力を認め、日常のなかで新しい視点をみつける機会となる。アーティストにとっては表現者と鑑賞者の双方に関わり、言葉で伝える経験となり、自作への意欲が刺激され、アーティストの社会的役割を問い直す。スタッフにとっては新しい視点や哲学に触れることができる。参加者の感情が変化していく様子を見て、アートは生きていくことの延長線上にあると確信できる。課題としては評価、検証が不十分/長期的な取り組みができない/限られた人々、限られた層にしか発信できていない/等が話され「アーティストと関わる教育活動の現場から何ができるのか? 何を発信していけばよいのか?。。。との問題が投げかけられた。
横浜美術館教育普及の端山聡子氏は、昨年、横浜トリエンナーレで実施した中高生のためのヨコトリ教室プログラムについて発表された。2014年5月から10月まで全13回延べ16日の長期プログラムは、逢坂恵理子館長から国際展の話を聴くことから開始。アーティステック・ディレクター森村泰昌氏と一緒に展示前のからっぽの美術館を見学したり、準備中の館内を歩いたり展示後は作品を案内されるという超特別待遇。その後、参加した中高生は「ヨコトリ号こども探検隊」を編成して8月中旬に小学生へ向けてギャラリーツアーとワークショップを実施する。同年齢でない小学生と一緒に作品を観たり作ったりすることは非日常で新鮮な経験ができたという。皆でまとめた記録「船長の航海日誌」には率直で正直な言葉が手書きで印されていて微笑ましい。この企画は森村氏との会議で「子どもたちにお子さまランチではなくフルコースの体験を!子どもたちだけの世界を!」という発言から始まった。館でも初の取り組みで「学ぶ」から「伝える」、「享受」から「伝達」へ、「消費から「生産」への発見と見守る美術館という経験であった。子どもたちへの種まきがどう開花するか楽しみだ。
4番目の事例発表「アーティストが高齢者施設へでかける時」と題して、私は2月に行った福岡の時とほぼ同じ内容をDVDを使って話した。福岡では持ち時間は50分で主に福祉関係者対象向けであったが、ここでは25分で美術関係者へ。
このフォーラムは1部と2部に分けて美術検定ブログに掲載されたので詳細は下記ブログをご覧下さい。
http://bijutsukentei.blog40.fc2.com
http://bijutsukentei.blog40.fc2.com/blog-entry-186.html

「パネルディスカッション」提供:国立新美術館
さて、定員200人をオーバーし、大盛況だったこのシンポジウムが残した意義は? 冒頭の主催者からの疑問詞への答えは?
私の率直な感想はヘザー・マクソン氏の話の中に沢山のヒントがあると思った。
日本の美術館は美術館へ足を運ぶファンに留まりがちで、主として入場者数で評価するのが定番となっているようで広がりに欠ける。ホイットニー美術館は社会の中での存在意義が明確にある。美術館を超えて、美術でなくては出来ない人間教育を本気でやっていること、社会的に手が届かない所へ手を差しのべていること、美術で批評精神を養い社会の一員としての生き方を育てる、等、NPO的な活動を美術館が行っている。日本の美術館にはNPOと連携して美術を必要としている人々への企画開発を望みたい。そして、私にとっては高齢者施設でのワークショップは公に開かれていないので、このような機会をいただいたことに深く感謝している。また、事前打ち合わせと見学を兼ねてヘザーさんと企画担当者ご一行で3331ア−ト千代田を訪れて、ARDAスタッフから各活動について説明と意見交換できたことを記しておきたい。

A「高齢社会における文化芸術の可能性〜英国から日本視察ツアー」
Arts for Ageing Society:Japan Study Tour
主催:ブリティシュ・カウンシル 4月13日〜4月17日
「高齢化とアート」をテーマに英国から視察団が来るので会って欲しいと、ブリティシュ・カウンシルからお話を聴いのは3月25日。ア−トコミュニティ活動の先駆的な英国からら日本に? 世界でも一番高齢化率の高い日本で芸術面でなにが起こっているのかを見聞したいと? オリンピックを視野に入れての交流を〜という意味が込められていると思うが、短期間で活動関係者との日程調整や対話フォーラなど怒濤の勢いでプランを進行されたブリティシュ・カウンシルの関係者の皆様にお礼を申し上げたい。
私は4月13日に世田谷文化生活情報センター、キャロット・タワーで発表。他に3人の方が順次それぞれの活動について話した。前日に来日された英国全土から高齢者に関わっている14の文化芸術機関の視察団メンバーの方たちが出席された。
今回も映像を流しながら活動主旨や造形、身体表現、音楽による各アーティストのワークショップでお年寄りの変化、介護者の気付き、アーティスト自身の想い等を伝えた。
「老いと演劇」OiBOKKeShi オイ・ボッケ・シを主宰されている菅原直樹氏は、介護福祉士で平田オリザの劇団青年座の俳優でもある。老いと演劇をテーマに太古から築きあげられた芸術活動によって「老い」「ボケ」「死」の明るい未来をあぶり出し地域社会の活性化を目指すという。勤務している岡山市の施設では認知症のおばあさんが、いつも、彼のことを時計屋さんと呼ぶので、時計屋さんになって会話をすると、色々な話が出てきて劇になった。お年寄りの存在感は演劇になると思った。市内で実際に認知症の妻と暮らす岡田さんの日常生活を元に「よみちにひはくれない」というタイトルの芝居を、駅前商店街で上演した。20年振りに帰省した人が老人と会うと、自分の妻が徘徊して見つからないと言う。そこで一緒に観客共々ゾロゾロ歩きながら探す。疑似体験となると共に観客は妻を捜す岡田さんの現実と芝居の間を交差しながら観る面白さがあったと言う。老いと演劇のワークショップでは、老いと遊び、ボケと演技をテーマに脈絡の無い言葉やボケを受け入れ、今、この瞬間をここにいる人と楽しむ、ユーモアがある。
世田谷パブリックウシアターの演劇部・学芸員の恵志美奈子氏は、創造する公共劇場の活動についてレクチャーされた。地域振興をめざす劇場では、コミユニティプログラムとして施設向けと学校対象のプログラムがある。学校へは授業に活用しませんかと発信している。施設へは介助ユニオンへあなたの現場で活用しませんかと問い合わせをして介助者、介護者と対等な関係で一緒にプログラムを考えている。
専門家育成では、演劇を作り発表する。その一例は脳性マヒの人をよんで散歩。共通体験をグループで深め、外部の人へ伝えたいのはなにかを考え脚本を作って劇場で上演。また、介助と介護をテーマに公募して地域より約20人が出演した「ある家族の話」は妹が統合失調症になったことをめぐる家族のことを「地域の物語」として台本を作り、2015年4月1日に上演した。また、6年前より芝居を持って行く@HOME公演を高齢者施設で行っている。年に2回、35分ぐらいの芝居を作って通所施設や特養を訪問。職員さんも芝居に入って頂く。劇場に来られない人へ届けるこの活動は区の補助金で行っている。さすが、世田谷区文化政策の一貫性が年を重ねながら地域に根ざした創造性へと発展していると思った。
筑波大学・ダイバーシティ推進室の河野禎之氏(臨床心理士)は、平成23年度日本老年精神医学会奨励賞を受賞された若き研究者。認知症の人たちに介入したことの成果について、介入前と後でどのような変化があったか?またはなかったか?を見えるように指標にすることが大切である。今迄は薬によるアプローチが見られたが、本人のQOLへどのくらい変化を与えたかが求められるべきだ。アートは生活の質をあげることに役立つので、その変化を見える化しなくてはならない。測定は困難なので計れるように調べて活用できるものを見つけて作成する。_というようなお話で一部は図表の解説もあった。
会場からの質疑応答のなかでも活動者と研究者のコラボについて日本の現状を質問され、河野さんは「今日、はじめてアートで活動している人に会いました」。私も「今まで成果をだすことは必要だと痛感していましたが、唾液で使用前、使用後のようなやり方は受け入れられなかった。今日初めてアートで評価できるという方に会えてよかった」と、日本での横のつながりが持てるチャンスとなった。
「フューチャー・セション:高齢社会における文化芸術の可能性」4月16日/国立新美術館 来日された団体から5分間のスピーチ後に参加者全員、約100名が参加するワークショップが開催された。今日の気づきとして「文化芸術が高齢者社会にできること」を紙に書いて同じ内容の文言でグループを作り、英国からのメンバーが加わって話し合う。そしてグループ代表が壇上に上がって発表。最後には全員が輪になってそのための第一歩となる言葉を英語で発声する。私は「LOVE ART!」と叫んだ。
この3つのイベントが異なったところからのアプローチだったことで、今迄とは違う感触を得た。高齢者への活動は私個人の発想から無我夢中で突進したところがある。今後はもっと冷静に社会が求めているところを見て、活動すべきだと思った。そして、今までの経験を活かし次世代へ繋げて行くことが私の責任だと感じている。日本での高齢者とアートに関する個々の活動は、それぞれ素晴らしいと思うが点でしかなく面としての繋がりが無い。その点、英国の文化支援は組織的に様々な分野をリンクして基盤ができている。高齢者に関しては上手くいっていない面もあると耳にしたが、既に社会的基盤があるのでサポートの層が厚い。高齢者に対しても選択肢が多いので、自分の好きなことを活かしてQOLを上げられる。
山のような難題を感じつつ、一歩前進するエネルギーを得ることができた。
今回の英国視察団は私の報告以外に様々な分野の方々と会談された。その全貌は日英両サイドでまとめの報告書を制作されているので、後日、お知らせしたい。
英国の団体のプロフィールや活動内容をまとめた冊子は、以下にUPされています。
http://www.britishcouncil.jp/sites/britishcouncil.jp/files/aaas_pdfa4.pdf
Play HouseのNicky Taylorさんが日本訪問の報告記事を記載されています。
http://www.ageofcreativity.co.uk/items/961
藤原ゆみこさん掲載BLOG。